top of page

【AICUはるフェス2026 Day3 セッションレポート②】漫画家に必要なのは「才能」より「体力」——佐渡島庸平が教える1日4ページの訓練法



AICUはるフェス2026 Day3 セッションレポート②

漫画編集者・佐渡島庸平 × AICU編集長・白井暁彦(しらいはかせ)対談AICU media ライターのEMKOがお送りします



前回は、佐渡島庸平氏の紹介とAIクリエイターへの眼差しについてお伝えしました。第2回は、佐渡島氏が語る「クリエイターの体力づくり」と踊り場の価値——「1日4ページ、下書きでいい」という今日から始められる実践法とともにお届けします。




32ページ描ける人が、連載できるとは限らない



話題は漫画家の「育て方」に移りました。



佐渡島: 基本的には、まず読み切りからです。例えば今日ここに来てる人たち全員が1時間半の講演できるかっていうと、途中で話す内容がなくなっちゃったりする可能性があるじゃないですか。でも10回壁打ちして5分間の面白い話だったら全員できるかもしれない。 それと同じで、漫画家もまず32ページ描けるよね、というところから始める。しかし32ページ描ける人が、単行本1巻分の220ページを描けるかというと、そこには大きなハードルがあるといいます。



佐渡島: さらに今度、20ページずつで終わりが基本的にないものを、ずっと走り続けてずっと引きを作る。単行本ごとにも山場を作らなきゃいけない。短距離走と長距離走ぐらい競技が違いますよね。



白井: そこの設計がうまい編集者に当たるとその漫画家も花開くし、そこがうまくないと花開かない。



佐渡島: 編集者が育て方を分かっていないと、新人賞を取った子にすぐ「連載の1作目作ってみよう」って言うわけですよ。焦っちゃう。そうすると作れども作れどもできなくて、結局途中で夢破れるっていう感じになる。



ソフトバンク4軍の目標を知っていますか?



「体力をつけること」の重要性を熱く語る佐渡島氏(右)と白井氏(左)対談のハイライトの1つが、プロ野球の育成システムの話でした。



佐渡島: 僕は漫画家を育てる参考になるかなと思って、プロ野球の3軍とか4軍がどういう風にトレーニングメニューを組んでるかを見に行くんですよ。ソフトバンクに4軍まであるんですけど、ソフトバンクの4軍の目標、何だと思います?



佐渡島:試合に出られる体力をつけること 、なんです。 プロ野球選手になるだけでも、野球界のトップ・オブ・トップです。その人たちが、全試合に出ながら体調管理をする。週6日の試合と移動をこなし続ける。



佐渡島: 怪我しないで試合と練習に全部出るっていうだけでも、実は超超人なんですよ。そう考えると、週刊連載ができるっていうだけでもすごいこと。



1日4ページ、下書きでいい



では具体的に、どうやってクリエイターの体力を鍛えるのか。佐渡島氏が示したのは、驚くほどシンプルな方法でした。



佐渡島: 新人漫画家だったら、下書きでいいから1日4ページ描くこと。4ページをSNSにアップできるかどうか、っていう感じです。



白井: 4ページ。1ページ3〜5コマで?



佐渡島: そうですね。だから12〜20コマぐらいで。12〜20コマあると、出来事だけじゃなくて感情の変化が描ける。起承転結の「転」をちゃんと入れて、14〜15コマぐらいで行こうか、みたいな。



白井: 1日4ページ、やれそうな気がする。



佐渡島: その日の日記を漫画にしたぐらいのつもりでね。あと本当に僕が若い子に言ってるのは、「生成AIでもいいけど、画像出してくるより紙に鉛筆で描いた方が実は速いからね」と。 1日4ページ。生成AIでなくても、紙と鉛筆でもいい。大事なのは毎日出すこと。白井氏も毎日ブログを書いて年間700件ほど書けるようになったそうですが、その基礎体力を作るのに大体3年かかったと振り返ります。



佐渡島: でもそこまで持っていった後に、その記事の中から単行本にまとめた時にベストセラーが出るかもしれない。その手前で打ち合わせしすぎると書くのが止まっちゃう。考えすぎちゃって年に3本しかアップしないとかになると、職業としては難しくなっちゃう。



佐渡島: 職業としてのクリエイターを育てるっていうことになると、どっちかというと続ける体力 の方がとても重要。



踊り場を恐れない



話題は「続けること」の難しさへ。



佐渡島: 今、生成AIを触ってる人たちって全員趣味でやってますよね。自由にやってる。で、これが何年続くかなんですよ。AIが進化し続けてるから、自分の欲望を深掘りしなくても興奮はできるわけです。「今月このツールがこうなった」みたいなのが2週間ごとに来るから、飽きずに3年とか5年とかは続けられるなとは思うんですけど。



白井: AICUマガジンも22号まで出ましたからね。毎月何かしらニュースになりますし。



佐渡島: なんですけど、大抵のことって続けてると飽きが来ちゃうわけですよ。



白井: 人間、成長しますからね。同じコーヒーの味でも3日飲んだら飽きちゃって。



佐渡島: そう。飽きが来て、見えるものが変わらない状態が続く時期がある。そのスランプ状態、踊り場を一定期間過ごさない限り、成長しないんですよ。



白井: 踊り場は逆に重要だと。



佐渡島: 絶対に重要ですね。誰かに求められてもいないのに、踊り場を何回も乗り越えた作品っていうのは、いい作品ですよね。世の中に残っているエポックメイキングなものって、そういうものが多い。商業的なものは結構、時代に沿って消えていくんですよ。 スランプは「ダメな時期」ではなく「成長の条件」。AIツールが次々に進化する今の環境は、ある意味で踊り場を経験しにくい構造になっています。ツールの新しさに頼らず、自分自身の表現と向き合う時間が大切なのかもしれません。



カフカもゴッホも、趣味が爆発していた



佐渡島: 例えばフィッツジェラルドってすごく有名な小説家ですけど、彼がハリウッドのために書いた小説って1つも残ってないわけですよ。カフカにしてもゴッホにしても、生きてる間に評価されなかった。カフカなんて小説を発表すらしてなくて、全部机の引き出しに書いては入れてた。死後に世間が見つけて読むようになった。



佐渡島:趣味が爆発しているものの方が、時代を変える 。



白井: ゴッホも生きてる間に売れた絵は1枚しかないし、しかも壁の隙間を塞ぐために使われてたっていう。 商業的に求められたものは時代とともに消費される。一方で、誰にも頼まれていないのに作り続けたものが、後の時代にエポックメイキングな作品として残る。AIクリエイターが趣味でやっているなら、数字は気にしないで自分の趣味全開でやり続ける方がいい。佐渡島氏のメッセージは明確でした。



25作品中5作品で稼ぐ「ファーストクラスモデル」



話題は出版業界の構造へ。



佐渡島: 雑誌って大体25作品あるんですよ。そのうち5作品で稼いでる。飛行機と同じです。ファーストクラスで稼いでエコノミーの席を支えてる。5作品は次の新人枠で入れ替え候補。残りの15作品ぐらいは、売れてなくてもいい。踊り場にいるような作品。でも中には編集者がどうしてもやりたいっていう実験的な作品もある。



佐渡島: 例えば『ちはやふる』とか。僕の同期が高校の百人一首の部活をやってて、めちゃくちゃおもしろかったから誰かに漫画にしてほしいって熱烈に思ってて、それで作家に言って始めることができた。



佐渡島: でもデジタルで全部データが出るようになって、雑誌単位で見てたのが1作品単位で人気が丸見えになると、実はほとんどの人が読んでないマニアックな作品が「これやんなくてよくない?」ってなっちゃう。でも連載が終わった後にカルト的な人気ですごいことになる作品もあるわけで。



佐渡島:昔の出版社は、作家や編集者の個人的な思いに対して数年間の投資が行われていた。今、エンタメ業界でそういう数値の裏付けがないものへの投資は、めちゃくちゃ難しくなっている。



白井: うちもファーストクラス欲しいです。太い客欲しい。



佐渡島: それは無視して粘ってる作品に地道にファン作ってくしかないですよね。ただ、分かりやすさっていうのは重要です。



次回予告



次回は漫画の「心的時間」について。『スラムダンク』山王戦の最後の5分間が何ページにもなる理由、「横<縦<斜め<めくり」のコマ割りメソッドなど、佐渡島氏が明かす漫画の核心技術をレポートします。


一気読みはAICUマガジンVol.23にて!




登壇:佐渡島庸平 / 白井暁彦(しらいはかせ)


Originally published at note.com/aicu on Apr 1, 2026.


 
 
 

コメント


bottom of page